秘密の遊び場

  • 2021年05月18日

こんにちわ、今年で創業64年を迎える旭川の中野特殊刃物工業(株)2代目で研師の中野由唱(よしあき)です。

 

昭和32年、私が2歳の時 父は旭川で刃物店を創業させた。

新潟県の新発田市から家族5人で旭川へ移住して間もなくのことだった。

旭川は家具の一大産地。

最初は家具工場の「丸のこ」や「帯のこ」を研ぐことから始め、次第に木工加工機の刃物も研磨するようになった。

当時、私たちの住む家は台所と6畳間が二つでそのうち1つは目立場(めたてば)=工場として使っていた。

2階は別の家族が入っていて、借家というより間借りだった。

狭い6畳の部屋に家族5人で暮らしてました。

実は

その目立場、私が小学校に入るまでは秘密の遊び場でした。父からは『絶対に工場(目立場)に入るんじゃない』とキツく言われてました。

 

その頃父は

毎朝6時には家を出て、自転車で家具工場に配達。

次の代わりの刃物を持ち帰り、午前中目立場で研ぐ。

昼食。

昼寝。

再び配達へ。

帰宅後、目立場で研ぐ。

仕事の合間に夕食を摂る。

その後、深夜まで目立場で再び刃物を研ぐ。

という具合で

日曜祝日も仕事をしていたので、父の顔を見ることは殆ど無かった。

「絶対に入るんじゃない」と言われると入りたくなるのが人情ですよねっ!

だから

学校が休みの日曜日と祝日は私に与えられたチャンスでした。

こっそり入る目立場にはキラッと光るものがたくさん、当時の私には宝物でした。

丸のこ、帯のこ、ルーター、カンナ、カッター、他に機械やヤスリや工具も。。

手にとって光に当てたり、

見てるだけでワクワクしてました。

でも

目立場を出る時には宝物を置いてあった場所に元通りにしておく必要があります。

刃物を見て、

研いだ刃か研ぐ前か、表か裏か。

一瞬に判断して、同じ場所に同じ向きで同じ位置に、父に絶対に分からないよう 正確に元通りにしておきました。

一度だけカンナ刃で指を少し切ったことがあります。父に何故「入るな」と言われたかその時分かりました。

私には姉が二人いますが、男兄弟がいません。小さい頃から家業を継ぎ、刃物屋になること以外考えたことはなかった。

そんな私は学校を出てから刃物の世界しか知りません。

他の世界を全く知らないのです。

幸か不幸か、職歴は1つだけ。

だから刃物に集中出来るのでしょうか。

時々思うのですが、もしかしたら

刃物を元の形に復元したり、元の角度に戻したり、あの時の秘密の遊び場が今の私を育ててくれたのかも知れない、と。

父から教えられたこと

仕事は盗め。

腕のいい職人の仕事を見て覚えろ。

あとは自分でやってみろ。

 

教訓

人から教えられた仕事は覚えないが、面白くてワクワクドキドキしたことは忘れない。

だから

ワクワクドキドキを仕事にしよう。

 

by 中野由唱 よしどん