【研ぎ澄ます】の意味に魅せられて

  • 2018年05月07日

2018年5月7日

【研ぎ澄ます】を国語辞典で引くと、
①刃物をじゅうぶんにとぐ。
②鏡などをみがいて、曇りのないようにする。
③比喩的に精神や感覚の働きを鋭くする。
例文:研ぎ澄まされた感覚とある。

多分ほとんどの人は、3番目の意味でしか使っていないことだろう。

まぁ 研師的には「一点の曇りもない程丁寧に研ぐ」と いうのが 【研ぎ澄ます】の意味になるし

刃物を研ぐ、ではなく 刃物を【研ぎ澄ます】と一々言ってほしい所である。

 

私にとって「刃物を研ぐ」とは、常に真剣勝負だし 刃物は研ぐものではなく【研ぎ澄ます】ものなのだ。今から7年位前だっただろうか、

研ぎ澄ました包丁の数が10,000本を越えた頃から『研ぎ』の奥深さと『研ぎ』の楽しさを感じ始めた。

そしてその『研ぎ』をもっと極めたくて、55歳で日本刀研師に弟子入りし、修行に入った。それは砥石の使い方も刃の研ぎ方も、私を試すかのように 包丁とは全く違うものだった。

しかし、この日本刀研師への修行が、私のそれまでの『研ぎ』への意識を 全く違うものに塗り替えてしまったのは、間違いのない事実だ。

 

切れるように研ぐ➡︎使い易いように研ぐ➡︎作業が楽になるように研ぐ というふうに、

研ぐ刃物の先に、必ず使い手の心を描くようになっていった。

大学を卒業後真っ直ぐ親元に就職したものの、研磨工見習いとしての仕事は最初はイヤでたまらなかった!

ところが、1年もすると研ぐことが楽しくなっていた。しかしそれでも仕事は仕事!

⑴刃が付いたかどうか?

⑵仕上がりの見た目が悪くないか?

⑶納期に間に合うかどうか?

⑷クレームが来ないように! とか

そんなことばかり考えて仕事に向かっていた。

 

40年の間に刃物を通して、数え切れないほどの知識を身につけた と思う。

そしてそこに日本刀研師への修行が加わって、知識を知恵に変え、〝人のために活きる刃物の捉え方〟を目指すことが【天命】と知った。

 

刃物の仕事に就いてから、2度目の成人式を迎えた。しかしまだまだ覚えることはあるようだ、次の成人式までまた修行を続けるとしよう。

今日の自分は昨日の自分よりも成長していたいから。

釧路麺遊会の皆さんと一緒に(^^♪

by 中野 由唱 よしどん

【過去から未来へ】

  • 2017年04月29日

2017年4月29日 土曜日 天気は・・・?

研師はひと振りの刀剣を仕上げる迄に18段階の工程をおよそ30日掛けて研ぎ上げる。

本阿弥流『研初めの儀式』は、その最初の段階である「荒研」のみで行われる。

刃欠けを落としたり血錆をとったり、師匠と弟子たちの息づかいが徐々に荒くなる。

刀身が輝きを取り戻して行く様は、まるで日の出の瞬間を迎えた朝日を見ているようなまぶしさを感じてしまう程だ。

日本刀は「荒研」が大事だ!
美しい仕上りになるかどうかが決ってしまう程、大事だ!

「荒研」をしっかり務めなければ、後の工程でどんなに手間を掛けても その仕上りが美しくなることはない。

40年間 刃物に携わってきて私が思うこと、それは・・・・

【刃物の基本は土台にある】ということ。

どんなに見た目に綺麗にいい刃を付けても、土台が悪ければ鋭い切れ味は実現しない。

土台の傷みや狂い歪みを取り除かなければ、刃物は充分に働いてはくれないものだ。

刃先を研ぐだけでは本当に研いだことにはならない。

やはり、土台から基本通りに手入れすることが「研ぐ」ということになる。

近頃、そんなことを考えながら砥石と向き合っている。

包丁研ぎの数も一万本を超えると見えて来るものがある。

日本刀も千振り研ぐと見える世界が変わると思う。

刃物は人類が造り出した最高の道具のひとつ

刃物を研ぎながら使い続けることは日本刀から伝わる日本古来の文化

私は、この日本の文化を過去から受け継ぎ未来へ繋げたい と願っている。
刃物に関わる者の一人としてそう思う。

by中野由唱 よしどん

【逸脱から五感へ】

  • 2017年02月12日

2017年 2月12日 日曜日 曇り

あなたは〝他力本願〟の本来の意味を知ってますか?

『もっぱら他人の力にすがって、事をなそうとすること』
これが近代の解釈だと思います。

しかし、これは本来の意味から転じたものなのです。

私の理解でずが・・・
『世の流れに逆らわず、我が身に何が起ころうとも覚悟して前を見て進む』
と、まあこれが〝他力本願〟の本来の意味だと思うんです。

〝他力本願〟とは・・・
積極的に前へ進む能動的な表現なのです。
近代の解釈とは、全く違っていると感じます。

〝他力本願〟本来の意味で自分を見直してみると どうでしょうか?

自分は、これまでの慣習から逸脱していないだろうか・・・?
それとも、逸脱しているのか・・・?

見直した結果、私は事務所の壁掛け時計を撤去しました。

時間に振り回されず、仕事に集中したいから!!

その結果、私の仕事は【研ぎ】から【研ぎ澄ます】へ ステップアップしました。

【研ぎ澄ます】とは、
刃物などを良く研いで一点の曇りもない様にすること。

ふと、気づくと時計の掛かっていた壁の丸いすすけた跡を
見上げている自分がいます。

習慣は簡単には変えられないものですね(笑)

実は・・・
【研ぎ澄ます】には、もうひとつのの意味があるんです。
それは、こころの働きを鋭敏にすること。

【研ぐ】という仕事は
五感をすべて使い、研ぎ澄まして行くことなのです。

あなたも時計を外して一日を過ごしてみませんか。

by中野 由唱 よしどん

【金剛砥石と金剛心】

  • 2017年01月08日

2017年1月8日 日曜日 晴れ

【金剛砥石と金剛心】

 

昨年暮れのことです。
日本刀研ぎの師匠に一番荒い砥石を分けてもらいました。

この砥石は日本刀の研ぎ初めの儀式にも使われるもので、
いわゆる金剛砂=こんごうしゃと呼ばれている砥石です。
ちなみに金剛とは凄く硬いという意味で、ダイヤモンドを金剛石とも言います。

金剛砥石は刀の刃欠けや血サビなどを落とす時に使われ、
刀研ぎ18工程の最初で用います。
最初ということで、本阿弥流研ぎ初めの儀式では、この砥石が使われています。

使う際には、四角い状態のままではなく写真の白いチョークの部分を削り取って
中央部分が一番高くなるようカマボコ型に成型して使います。
包丁を研ぐ場合は四角い状態が理想なのですが、
刀の場合は砥石はすべてカマボコ型にして使います。

日本刀に求められている要素に「鋭い切れ」があります。
それを実現するためにハマグリ型の刀身が必要だと考えます。
刀本体の断面がハマグリを横から見た姿に似ていることから、
ハマグリ型と呼ばれています。

日本刀を美しいハマグリ型に研ぎ澄ますために、
砥石のカマボコ型は欠かせないものなのです。

砥石一つを例にとっても、細部に渡って決め事があります。
それが日本刀の美しさを造り出すと、私は考えます。

  • 〚今日のまとめ〛
    金剛砥石とは凄く硬い砥石のこと
    金剛石とはダイヤモンドのこと
    金剛心とは強くて硬い意思のこと

 
年の初めに
金剛心をもって目標に向かおうと誓いました。

byよしどん

【わたしの天命】

  • 2017年01月04日

2017年1月4日 水曜日 くもり

【わたしの天命】

みなさん、昨年はたいへんお世話になりありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願いします。

正月だから、という訳ではありませんが・・・
近頃 日本の包丁が外国人観光客に人気がある、と聞きます。

古来の日本刀技術が、現代の包丁にも活かされていることを
世界の人々は知っていて、その技の凄さを認めているのです。
特にアジアやヨーロッパのシェフたちが「切れる包丁」を求めて、
大勢日本にやって来ます。

ですから日本人にはもっと、伝統の技や文化のすばらしさを知ってほしい。
そんな思いから、これから少しでも多く 知る機会 を作って行きます。

わたしの名前「由唱」には物の由来を伝える、という意味があります。

日本刀と包丁の〝研ぎの技〟を古来から未来へつなげてゆくこと。

それが【わたしの天命】と信じます。

byよしどん