刃物の弱点
- 2022年01月15日
こんにちわ
北海道旭川市で創業64年の刃物専門、中野特殊刃物工業の代表で研師の中野由唱(よしあき)です。
私がこれまで44年間で関わった刃物は実に様々です。
いろんな場面で色々な刃物が色々な用途で使われています。
中野特殊刃物の場合
木工場、家具工場で使われる「丸のこ」や「帯のこ」がその代表ですが、SNSで仕事や日常のことを発信していると多くの人と話をする機会が増えます。
その結果〝家庭で使われている包丁が如何に切れない状態か〟が分かってからはここ10年ほど、包丁にも力を注いでいます。
ここで私が関わった『おもしろ刃物たち』の一部を紹介しましょう。
・氷彫刻のみ
・ワカサギ釣りのアイスドリル
・公式スケートリンクの氷面仕上げ用ブレード
・ゴルフ場のフェアウェイ専用芝刈機の刃物
・ピアノ響板工場の精密刃物
・ペットボトルリサイクル工場の粉砕刃物
・外科病院のメス(今はありません)
農業、林業、水産業、酪農業、土木に造船、
製紙業、自動車産業、建築業
にスーパーの惣菜部 などなど
とにかく刃物は多種多様で、日常の暮らしに深く関わっています。そしてそのひとつひとつが私たちの生活を豊かにしてくれているのです。
ところでみなさんは「刃物は硬いものに弱く、柔らかいものに強い」そう思っていませんか?
若い頃の私はそう思っていました。
ところが
入社して3年の研磨工の見習期間が終わり、訪問した製紙工場で初めて紙の切断作業を見た時 その思いは一転しました。
柔らかい紙を切っているはずの刃物の切れ味が、私の目の前でみるみる落ちて行く。
私はその現場の事実に「えっ何でー」と唖然とするばかり、今思えば 刃物を研ぐ作業をしている私だからその事実を受け入れる他なかったのかも知れません。
刃物にとって最も苦手なことは、、
機械的に動く刃物の回転速度にムラがあること。
切る相手が、木や布地と違ってタテヨコの繊維がはっきりしていないこと。
があります。
最近、既製家具や既製建具によく使われているMDFという圧縮木材があります。
簡単に言えば、
木の粉を圧縮して固めたもの。
これは繊維方向が無いため、加工に使う刃物の磨耗は一般木材と比べて3倍以上。
つまり、すぐ切れなくなる ということ。
しかし、材質そのものは柔らかいものが多いです。
また、洋裁の裁鋏(タチバサミ)は型紙などの紙類を絶対に切らぬこと、と言われています。
すいて作る和紙はいいのですが、西洋紙やコピー用紙は圧縮されているのでハサミが早く切れなくなります。
ナイフのような刃物が研ぎ上がった時、試し切りで新聞紙や雑誌を切っているのを見かけますが みなさんは決してマネしないでくださいね。
せっかく仕上がった刃物を、使う前に大きく磨耗させることになってしまいますから。
まとめ
自分が使う刃物を自分の手で研いで使う場合はあまり気にしなくていいと思うのですが、
プロが預かった大切な刃物はそうはいきません。
その刃物の弱点を知り、性質や特徴に合わせた取り扱い
をすることが大事です。
『みなさんがもし 研ぎ上がった刃物の試し切りをする場合は、十分注意してください』
刃物の性質や特徴を考えることは、刃物を好きになるキッカケになるはずですから。
by 中野由唱 よしどん