包丁研ぎで心に潤いを
- 2019年07月25日
忙しい毎日を過ごす現代人。
自分の周りの環境の景色や音、空気の匂いやそよぐ風、そういうもの感じている人 少ないんじゃないかな?私はたまに感じる程度です。
そして、それらはすべて五感で感じるもの。
研ぎ澄ます
という言葉があります。ほとんどの人は「耳をそばだてて、神経を研ぎ澄ます」などと心の動きを鋭敏にする意 と思っているでしょう。もちろん間違いではありません。
でも本来の意味は
刃物などを良く研いで、少しの曇りもないようにする。
つまり、刃物をしっかり研ぐことを研ぎ澄ますと言うのです。
そして、研ぎ澄ますことは五感を使うことなのです。
現代人は毎日の暮らしの中で、この五感をつかう機会がどんどんと無くなっています。人間だけが持つこの五感、大切にしたいですよね。
以前「包丁研ぎを教えてください」と妹背牛町の女性農業者グループさんから声をかけていただき、そのお一人が包丁研ぎ教室の感想を日本農業新聞北海道版に寄稿してくれました。
食と農 広がる輪 3年前のものですが、投稿者ご本人から了解を頂いたのでここにご紹介します。
「包丁を研ぐ時間」
一昨年、女性農業者グループ昴(うずら)で包丁研ぎ講習会を行った。全員が農家であり主婦であるメンバー、興味の度合いは言わずもがなである。
講師はその時包丁研ぎにはまっていた私の友人から、師とする研師を紹介してもらい旭川から招いた。
研ぎ方そのもの(持ち方・手順・研ぐ角度など)はもちろん、研ぐ前に砥石を30分以上水に浸けておくこと、包丁の保管の仕方(水気・湿気は厳禁)、木製のまな板が一番刃を傷めない、ということなど たくさんのことを教わった。
用意されたサンプルの包丁は当然だけれど、どれも切れ味抜群で 参加した8人のメンバーで代わる代わる試し切りすると、黄色い歓声が。切れ味の良い包丁だと野菜がより薄く細く切れるし、お肉がムニュとではなくサクッと切れる。
料理が楽しくなり、切る作業も安全になるのだ。
ユーモアもあり親しみやすいお人柄の研師は刀も研ぐとのことで、そのまなざしにメンバー一同すごみを感じた。それぞれ持参した包丁も蘇らせてもらって、感謝感激の講習会となった。
あとは自宅で練習あるのみで、さっそく自分なりに研いでみるも 刃の〝返し〟の感覚をつかむのにしばらく試行錯誤した。そのうちに普段使いの私の包丁は、研ぐ角度が間違っていた上に 持ち前の馬鹿力も手伝ってか、研ぎ過ぎてペティナイフのように小さくなってしまった。
そうして昨夏に、「昴(うずら)」メンバーで講師をしてくれた研師経営の刃物店に出掛ける機会があった。講習会に参加していなかったメンバーも、話を聞いて試し切りさせてもらうことができて、砥石や包丁を購入するメンバーも多数。
私も再度研ぎ方へのアドバイスをもらい鋼(はがね)の包丁を買った。大満足の切れ味の包丁は、毎日使う台所の相棒であり宝物になった。
日々は移り動いていて、雪解け時期からこの春は特に考えることも多く、気が付けば包丁研ぎから遠ざかりがちになっていた。
思い出したように久々に研いでみると、集中して刃と向き合う時間は不思議と心も落ち着かせてくれた。
「少し余裕が出て来たのかな」と、自分の内面とも向き合ってみる。切れ味もよくなり一石二鳥、これからも包丁を研ぐ時間を大切にしたい。
(橋向美月・妹背牛町の米農家)
五感を使った包丁研ぎは集中するとストレス解消にもつながります。
何でも簡単で手軽になっている世の中です。しかし簡単に研げるものは、簡単に切れなくなる。それが刃物です。
みなさんも研ぎ澄ますを是非実践してほしいものです。
by 中野 由唱 よしどん